WEB限定連載 今夜もまちづくり
第一夜
「ケムリが心に沁みる夜 〜のぎく・楽笑編〜」
夜。重厚な木製のドアを開ける。紫煙で煙る店内を見渡し、無言で「空いてるか」とシブい表情を見せる。店の女性がこちらへ、と誘導する。飲み物が運ばれてきた。グラスを合わせ、喉を湿らす。テーブルの上に並べられた料理を横目に、オトコの哀愁を漂わせ、じっと中央の炎を見つめる。煙が目にしみる…。
マーロウか沢崎が出てきそうなハードボイルド・バーで、女性と一緒ではなく、実は煙もうもうの七輪焼肉を、野郎2人で豪快に喰らっているのだ。しかし、妄想でなくそのままなのである。
そばめし、お好み焼き、ぼっかけ、アジア…。新長田の魅力は多々あれど、忘れてならないのが「焼肉」。無煙ロースターのお洒落で清潔な店内で、豊富な創作メニューとキビキビした若手スタッフに囲まれ、ロース、カルビなどあれこれ悩みながら注文するのも楽しいが、肉と一緒に顔も体も煙でいぶされながら、「大皿!辛口!」と、ホルモンも正肉も一緒に盛られているヤツを豪快かつ簡潔に迷わず頼みたい夜もある。
新長田駅北側、シューズプラザ方面の少し西側に居酒屋がこじんまりと集まっているブロックがある。すんごく分かりにくいけど、さらに奥まったところに、「のぎく」の重厚な木製ドアがある。どこでもドアがポツンとある、まさにそんな感じだ。入りにくいことこの上ないが、勇気を振りしぼる。入口と反対に広い店内は、連日満員のお客さんで大にぎわい。巨大換気扇がフル回転。元気いっぱい店内を移動するおネエさんたち。
テーブルの中央は、炭をイコすことができるようになっている。一部、テーブルが低いところがあり、それに合わせてイスも低いゾーンがある。幼稚園児が焼肉を喰うとこんな感じなのか。幼稚園児との違いは、すかさず「生!」と宣言することだ。
生が運ばれ、大皿肉も運ばれる。これでもか!と盛られている。網に肉をぶちまける。炭が調子よくなってくると、どんどんプシプシと焼けてくる。すでにしっかりと特製ダレの味がついているので、タレにいちいちつけず、焼き上がりをそのまま口に運ぶ。タフでワイルドだ。
何とも言えない辛口ダレと、肉の甘みと香ばしさが口中に広がり、すかさず生ビールで洗い流す。これこれ!疲れもストレスも吹き飛ぶパンチ力だ。煙が目にしみるけど、これは嬉し涙かもしれぬ。焼肉を食った、という幸せをどこまでも体感できる。
生ビールに飽きてきたら、韓国焼酎やマッコリもいいけど、ハイボールがオススメだ。肉には赤ワイン、という紳士淑女は多数いらっしゃるかと存じます。しかし、肉にはウィスキー、これでしょう!新長田流は焼肉にウィスキー(ハイボール)、この取り合わせの普及委員会を発足させたい。
焼肉で腹が満たされ、口の中はトロントロン。体は燻製状態。そんな人間ソーセージ状態でまっすぐ帰宅することは許されない。F1マシンでもピットインせねばならぬのだから、人間は言わずもがなである。
「のぎく」を出て、そのまま西へ30mほど行くと、レトロな店構えが見える。バー「楽笑」だ。
こちらのお店、いつも大人気。ダーツのギュルルン!という音が店内に響き渡る。落とした照明がシブく、床も掲示物もどこか昭和を感じさせる雰囲気。値段も安く、フードも妙に充実し、極めつけは20代後半にしか見えない(ほめすぎたか)ママをはじめ、スタッフの女性のみなさんが本当に別嬪さんで、トークも軽妙洒脱。居心地もよく、お客さんであふれ、活気あるバーなので、無口にハードボイルドを気取ると浮いてしまう。お酒は明るく楽しく呑みましょうね。
焼肉トロトロの口の中をさっぱりさせるには、ジントニックでしょう。ワタクシは、ライムの代わりにレモンを入れる「レモントニック」が大好き。がははと笑いながら、すっきりカクテルとトークを満喫。
お腹はいっぱいだけど、酒のツマミは?そんな時は、「まちづくりの話題」を絶妙のツマミだ。一人で訪れて、店員やお客さんにまちづくりや地域活性化のことばかり話してたら、迷惑この上ないヘンなヤツになるので、このツマミには必ず我慢強い同行者が必要である。
同行のM氏と鯨飲していると、ますますエンジン全開に。新長田の活性化に関するアイデアが温泉のように湧き出てくる。まさに‘シンナガターズ・ハイ’。チュー‘ハイ’よりも、自分自身に酔ってしまう危険水域に突入。そして、エンジンがついにオーバーヒート。記憶が吹っ飛び、何も覚えておりません。
今回より始まった、WEB限定連載の記念すべき第1回目、(おそらく)素晴らしい(はずの)活性化アイデアをご披露できず、実に残念です。
[09.07.01更新]