WEB限定連載 今夜もまちづくり

第九夜
北の大地、情念に身を焦がす夜 〜あみ●き・よしや編〜

北。日本列島が一気に寒さを増した11月。寒くなると、魚がぐっと旨くなる。美味しい魚を味わいたいなら、やはり北国だ。東北あたりの、雪がしんしんと降るシバれた夜。赤提灯のカウンターにて熱燗で温まりながら、身の引き締まった冬魚を味わいたい。同じカウンターには、妙齢の美女が一人、時折り涙を浮かべながら座っている。気にしつつも、無言で杯を重ね、ふと目が合う。そして…。健さん映画の妄想世界に少しでも浸りたく、北国ならぬ新長田駅北側に足を向けた。五位池線に面するルータス水笠1階、居酒屋「あみ●き」を目指して。

あみ●き
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カウンターだけの店内は、モダンながらも健さん映画、カラオケビデオの演歌の世界。表が魚屋、奥が居酒屋という二重構造。奥まっているので入りにくいかもしれぬが、絶品の魚介類が堪能できる。というより、ほぼ魚介類しかメニューにない。隠れ家的雰囲気が濃厚だ。意中の女性を口説こうと訪れ、「どうだいこの店、シブいだろぉ?」と通のオトコぶりをアピールする間もなく「ワタシ、お魚が苦手。エヘっ」と先手を打たれようものなら、決してイケそ〜な夜にはならないので、ご注意を。一方、お魚大好きMan&Womanにはこれほどステキなお店はなかなかない。

焼酎のお湯割りがウレシイ季節だ。新鮮極まりないカレイやイカの刺身、カレイの骨せんべいに身悶える。好魚系飲酒野郎は、ヒラメ派またはカレイ派に分類される(と思われる)。私は、断然カレイ派だ。ヒラメより淡泊で、なおかつ上品な甘みがある(区別できる自信は皆無だが)。どっちでもエエやん、という紳士淑女は、この地に足を踏み入れるべきではない。お品書を観ながら、カレイかヒラメで悩んでこそ、微妙な違いの分かるまちづくり野郎になれるのだ。

プリップリのたこガーリック炒め、まさに旬を迎えた牡蠣フライをほおばる。海の果汁が口中に広がり、芋焼酎のお湯割りでさっぱりと舌を洗い流す。

ちなみに「あみ●き」、基本的には取材お断りのお店である。ゆえに伏字だ。私は、常連中の常連とまではいかぬまでも、旧山吉市場で7人ぐらいしか入れない仮設店舗時代から通い続けてきた。そして、初めて一人で訪れ、初めて行きつけとなった居酒屋である。少年から大人への脱皮。筆おろしならぬ居酒屋おろしを、この店で初体験したのだ。

カウンターには、カメラ担当スキンヘッドM氏と、このバカ連載に参加を志願したI嬢。I嬢とは昔、夜8時からの会議終わりによく呑んだ。会議中はマグロだが、会議後の飲み会では千手観音ばりのドリンク注文さばきを発揮する。健さん世界に浸るはずが、新たな出会いもなく、昔馴染みのI嬢が隣。とはいえ、せっかくなので妄想を膨らませ、I嬢を和服の似合う北国美人に無理やり置き換えた。

よしや
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木枯らし吹きすさぶ、新長田の北の夜。一人旅立つさすらいのオトコに追いすがる女性を振り切ろうと、津軽海峡ならぬ五位池線(愛称:タンク筋)を超えた。100円コンビニのすぐ北の東西道路。漆黒に闇に浮かぶ縄のれん。おでん居酒屋「よしや」に吸い寄せられた。おかしのデパート「よしや」ではない。

ぐつぐつ煮えるおでん、そして熱燗。冬のゴールデンカップルである。情念の炎を滾らせながら私の背中を追いすがってきたI嬢から、熱燗を注いでもらう。ちなみに、熱燗を注ぐにも作法がある。とっくりの注ぎ口は、「円の切れ目」。ここから注ぐのはいただけない。ゆえに、切れ目以外から注ぐのが裏千家ならぬ裏新長田家の伝統だ。ところが、注ぎにくい上にこぼれやすい。しかも、熱々に煮えたぎる酒が、相手の猪口を持つ手にかかってしまうこともしばしば。極めるには厳しい修行が必要である。

おでんを見繕うには、一皿3品までとしたい。私の3本柱は、豆腐・大根・卵である。これが一番槍。二番槍は、練りものや巾着系が好ましい。辛子をたっぷりつけて、ハフハフほおばる。出汁の旨みの後に、辛子が鼻を突きぬけてくる。涙がこぼれそうになるのをこらえ、熱燗を流し込む。冬、大好きだ。

店内にいたお客3人のうち、2人が知り合いで、たまたま店でばったり出くわした。新長田の大物住民の方の両脇に控えるのは、新長田の一反木綿・S田と、その上司の園D氏。4時間近く杯を重ねながら、様々なご意見を拝聴している。まさに、「今夜もまちづくり…」を実践していた。

「よしや」を出た後、我々3人+2人の計5名で「楽笑」へ。冷たいレモントニックが火照った喉に心地よい。話し込んでいるうちに、記憶が飛んでいる。それ以降、全く覚えていない。

楽笑
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後日、M氏撮影の写真を、本原稿を書くために見せてもらった。なぜか、店の外で私がフラフープをしている。腰をくねらせ、狂ったようにフラフープを回す私のスピードに、シャッターが追いつかないのか、大きくぶれている。ふるへ、ゆらゆらとふるへ。ぶれている私の姿が、北の地に渦巻く情念の炎に見えた。

[09.11.10更新]

あみ●き

兵庫県神戸市長田区 ‎

酒処「よしや」

兵庫県神戸市長田区御屋敷通3

ダーツバー RAKUSHO 楽笑

神戸市長田区松野通1-6-5

 

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