WEB限定連載 今夜もまちづくり
第十一夜
竜宮城で蕩ける夜 〜たにぐち・ぐいぐい本舗 編〜
浦島太郎。ニッポンの肉食系男子なら知らぬ者のいない昔話の英雄である。長引く不況、新型インフルエンザ、凶悪犯罪事件、薬物乱用…。厳しい現実が刃のごとくギラリと光った2009年。世知辛い現実を離れ、来るべき2010年に向けて鋭気を養うために、浦島氏のごとく竜宮城を目指した。
たにぐち |
---|
▲クリックで拡大 |
竜宮城へ向かうには、助けた亀に案内してもらう必要があるが、イジメられている亀などすぐに見つからない。そんな折、景気の悪そうな表情を浮かべた新長田のタコ社長ことKタクシーのM崎社長が、中小企業経営者の悲哀を漂わせながら、フラリと私の職場に顔を出した。亀ならぬタコの導きで、新長田駅をタンク筋沿いに北上。新長田の竜宮城こと「たにぐち」に吸い込まれた。
ワカサギの佃煮などで口の中をしょっぱくさせ、冬の醍醐味・タラの白子焼に目を細めていると、タイ・赤貝・淡路ウニのっけイカ・関サバらが、ピチピチ踊りながら歓待してくれる。ピカピカ光り輝き、新鮮極まりない刺身の特徴である‘カドが立った’活きの良さ。健康な体育会系女子学生を連想させる。赤貝のコリコリ、タイの舌に絡みつくねっちりさ、海の果実の恵みを濃縮したウニと甘みあるイカの幸せなマリアージュ。極めつけは、関サバだ。ブランド鯖として名高い逸品。新長田で味わうことができる奇跡に感謝しながら味わう。上品な甘みが鼻から抜ける。脂はしつこさ皆無。極上のチョコレートのようにふわりと溶けていく。熱燗が急ピッチになる。
たにぐち |
---|
▲クリックで拡大 |
いよいよ本格的な舞を堪能する。テーブル中央に‘鍋’というステージ準備が整う。お店の方のエスコートで、タ●ラヅカのラインダンスのごとく踊り子たちが整列して運ばれてきた。ブリ。アワビ(肝付)。クエ。本日の演目は『海鮮しゃぶしゃぶ』である。
刺身でも食べられる新鮮さだが、少し湯通しすることで風味と甘み、食感が増す食材がある。アワビがスモークのような湯気を上げる鍋の中で、シンクロのような水中の回転演技を少しだけ披露する。ポン酢につけて一口。少し柔らかくなることで、円熟した旨みが濃くなる。まちづくり
活動と同じく、元気いっぱいのピチピチもいいが、色気漂うしんなりはんなりも独特の味わいがある。続いて、キ●ン一番搾りCMで佐藤浩●氏が旨そうに頬張っていた、憧れのブリしゃぶ。しかも氷見産。鮮烈なピンクの身を湯中で踊らせると、一瞬で白くなる。美しい化粧を施した祇園芸伎のようだ。ブリ特有の脂っぽさが消え、旨みの余韻だけがいつまでも残る。悪女の深情けのような味わいである。
とどめは1mを優に超える魚界の荒法師・クエをしゃぶしゃぶする。本場・九州の人でもしゃぶしゃぶしたことがあるのだろうか。淡泊かつ上品な白身と、しっかりした歯ごたえの皮との対比が精妙。耽美かつ剛強。無垢かつ無骨。初めての食感である。熱燗のち焼酎水割り、時々生ビールというローテーションが確立される。竜宮城のまだ入り口なのに、すでに脳が蕩けそうだ。
野菜類を平らげた後は、旨みを存分に凝縮した出し汁で作る雑炊。すっかり元気を取り戻した亀ならぬタコ社長や同行者たちも、一心不乱に啜っている。全員の顔が蕩け、脳内麻薬が分泌されているようだ。忘年会シーズンだけでなく、常に竜宮城好きであふれている「たにぐち」は予約する方が賢明。まちづくり活動は、段取りが命。劇●四季も当日券がないように、海鮮しゃぶしゃぶも前売予約が必要だ。
乙姫様への謁見が近づいてきた。店を出て、さらに深く潜る(南下する)。新長田駅北すぐ、地下から宴の歓声が聞こえてくる。地下の本殿にたどり着く。ガールズ立ち飲み居酒屋「ぐいぐい本舗」である。
店内は浦島太郎たちでギュウギュウ。凍てつく外の寒さと比べすごい熱気。満員電車のような店内を、ステキな笑顔の美しい乙姫様たちが、踊るように間をすり抜けて注文をさばいていく。ハイボールを‘ぐいぐい’やりながら、料理を注文する。乙姫様が近寄ってくる。星のようにキラキラした笑顔でオススメ料理をご推薦して下さる。私は奥歯を噛みしめながらシブイ表情を浮かべていたつもりだったが、後日写真を見ると、頬っぺたが落ちんばかりのしまりのない満面の笑み。同行氏たちもご満悦の表情。そして、意識はさらに深い海の底へ沈んでいった。
ぐいぐい本舗 | |||
---|---|---|---|
▲クリックで拡大 |
記憶がないまま、竜宮城から亀と同じ色のKタクシーに乗ったようだ。目覚めると、もうすぐクリスマスを迎える現実世界に戻っている。乙姫様からクリスマスプレゼントという玉手箱を期待したが、残念ながら頂けなかったようだ。それどころか、私の愛用しているカバンが手元から消えている。ちなみにいまだに見つかっていない。私のカバンは深海でひっそりと眠りにつき、玉手箱を開けて老人になった700年後の浦島太郎が発見してくれるのを、じっと待っているのかもしれない。
[09.12.31更新]
たにぐち
兵庫県神戸市長田区水笠通4-2-2
電話:078-641-5061
「たにぐち」さんが食べログで紹介されています。
立ち呑み処 グイグイ本舗 新長田店
兵庫県神戸市長田区松野通2-2-7
電話:078-641-8181
「グイグイ本舗」さんが食べログで紹介されています。