WEB限定連載 今夜もまちづくり

第十六夜
海のシルクロード、すべての道は新長田に通ず夜 〜1.旅立編〜

第十六夜 海のシルクロード、すべての道は新長田に通ず夜 〜1.旅立編〜

西遊記。白馬(玉龍)に跨るお坊さま(三蔵法師)と家来の猿(孫悟空)・豚(猪八戒)・河童(沙悟浄)が冒険を繰り広げながら天竺へ向かう一大ロマンである。神戸市の(位置的に)中心にあり、ヒマラヤ山脈のごとく高層ビルがそびえ立つ天空の城・新長田は神戸の天竺といえる。‘海のシルクロード’こと地下鉄海岸線を利用して天竺・新長田を目指す、震災復興第二種市街地再開発事業にも匹敵する一大プロジェクトが急遽決定した。

西遊記に勝る大冒険。それは夕方から終電までに、海岸線全10駅をすべて途中下車。その地で必ず一品(食料)・一呑(アルコール)して天竺(新長田)にたどり着く、世界史上今まで恐らく誰も(アホらしくて)成し遂げられなかった偉業に挑戦。心震える現代の奇跡だ。

苛烈な海のシルクロードに、豪遊は許されない。全10駅途中下車に加え、厳しい5つの掟を課した。

  • 掟一:どんなに満腹かつ酔っぱらっても、1品を食し、1アルコールを摂取すべし
  • 掟二:同じ食物、同じアルコールは2度と注文すべからず
  • 掟三:駅の出口(または改札口)から5分以内にオアシス(お店)を発見すべし
  • 掟四:自動販売機、超大手チェーン、コンビニは利用すべからず
  • 掟五:予算は「‘し’ん‘な’がた」にちなんで1人7,700円以内とすべし(4,700円はご勘弁下さい)

この大冒険の隊員は、三蔵法師っぽいスキンヘッドだがメンバーで唯一猿っぽいと言えないこともないパートナーのカメラM氏(孫悟空)、若きエリートながら頭頂に一抹の哀愁を漂わせているところが河童っぽいN区役所のM田氏(沙悟浄)、女性という一点のみで夏目雅子氏っぽいI嬢(三蔵法師)、そして太っている私(猪八戒)。三蔵法師と沙悟浄は、旅立ちの1時間前に偶然出会い、旅の仲間に引きずり込んだ。

三宮・花時計前駅
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氷雨降りしきる3月初旬の16時、三宮・花時計前駅に一同が集結した。日曜16時という魔の時間帯で花時計周辺の地上店が休業しているため、地下のオアシスを探す。強烈な人の波に流されそうになる。阪神三宮駅改札から東へ向かう飲食ゾーンに向かい、迷ったあげく海鮮居酒屋に突入した。外は寒かったので、温かい焼酎の湯割『大金の露』(たっぷり入って350円)が爪先まで沁みる。

豪快に『特選4種造り盛り』(1,200円)が出てきた。本まぐろ・活〆ひらめ・活〆さより・金華鯖きずし。新鮮かつ歯ごたえがあり、スタートとして真にふさわしい。いきなり腰が座りそうになるが、ペース配分が重要だ。奥歯を噛みしめて店を出る。その時、初めて店の名前を確認した。「菜遊季(さいゆうき)」。我ら「西遊記(さいゆうき)」一行、あまりの偶然に見えない力に導かれているような感触を得る。

旧居留地・大丸前駅
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店から3分02秒かけて駅に戻り、16時40分発に乗ってわずか1分で2駅目の旧居留地・大丸前へ。地上に出ると、南京町が目の前。煌びやかな屋台からモウモウと湯気が上がっている。どれも安くて旨そうで熱そうだ。屋台で紹興酒(たった150円)をチビチビ啜りながら南京町広場に向かうと、いつもの見なれた大行列がある。その先は元祖豚饅頭発祥の店「老祥記」。30分、1時間待ちは当たり前である。

豚饅頭で攻めたいが、行列に並ぶ時間がない。だが、その真正面に老祥記グループの「曹家包子館」がある。本店との違いは、椎茸が入っていること、その分10円だけ高いこと。極めつけは、ほとんど並ばずにすぐ買えるということ。出来たて熱々の『椎茸豚肉包』(1ヶ90円)を頬張る。肉汁がピュッと口の中で弾け、生地のモッチリした旨みと椎茸の風味と歯ごたえに、しみじみ神戸市民で良かったと感じさせる。豚まんは家で座って食べるより、寒風吹きすさぶ屋外で立ったまま頬張るのが、一番美味しいシチュエーションである。ちなみに家に持ち帰った老祥記豚饅頭は、油をひかずにフライパンでカリッと両面焼くと、一味違った魅力的な食感が楽しめる。同店オーナーS氏に直接教えていただいた食し方である。

みなと元町駅
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南京町広場から歩いて3分20秒。明らかにみなと元町駅まで歩いた方が近いが、あえて戻って電車を少し待つ。17時53分発に乗車し、3駅目のみなと元町駅へ。すでに2時間近く経過しており、あまり時間がない。地上に出ると、オフィス街なのか店がない。人もあまり歩いていない。すかさず北上し、元町商店街4丁目へ。ハイカラな元町らしく、スィーツはどうだろう。甘いモノ普段ほとんど食べないが、ウィスキーをストレートでやりながらスィーツを少しだけ齧るのは、悪くない楽しみ方である。

港町神戸を代表する甘味といえば、カステラ。「長崎屋本店」で『ひときれカスティラ』(136円)を購入。単なるカステラでなく『カスティラ』という表記が実にポルトガル情緒たっぷりである。ところが、すぐ近くに酒屋が見当たらない。あったとしても、コンビニだ。頭を抱えた。

<次回・第十七夜「激闘篇」に続く>

[10.03.18更新]

三宮・花時計前駅 / 菜遊季

兵庫県神戸市中央区三宮1-10-1 さんちか味のれん街内
電話:078-333-0181‎

旧居留地・大丸前駅 / 曹家包子館

兵庫県神戸市中央区元町通1-3-7
電話:078-331-7726
ホームページ:http://www.roushouki.com/paotukan/index.html

みなと元町駅 / 長崎屋本店

兵庫県神戸市中央区元町通3丁目65-2
電話:078-331-5035

 

 

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