WEB限定連載 今夜もまちづくり

第十夜
円卓の騎士団が冒険する夜 〜西神戸牡丹園・一穂 編〜

円卓の騎士。ヨーロッパ最大の伝説とされるアーサー王が考案したらしい、上座下座のないラウンドテーブル。これからのまちづくりは、円卓の思想がますます重視される。そして今、日本で純然たる円卓を囲もうと思えば、中華料理店に赴くしかない。しかも、高級中華だ。西神戸のみならず西日本屈指の名店として名を轟かすアスタくにづか3番館の「西神戸牡丹園」に、新長田のアーサー王ことU田会長を囲むべく、円卓の騎士ならぬ‘宴たけなわの酔っぱらい’どもが集結した。

カリッふわりと衣がサクサク『小海老天麩羅』、マイルドなとろみが官能的な『芙蓉ハイ』、ビールにガツンと合う『焼餃子』、絶品スープで喉にツルンとすべる『水餃子』。歯ごたえが楽しい『あんかけ固焼きそば』に、野菜の旨みが最大限引き出された『やわらかい焼きそば』。ちびちびつまむと酒のアテにも最高の『焼飯』に、脳天に雷が落ちたかと錯覚する旨すぎる味わい豊かな『肉玉めし』・・・。胡瓜の甘酢漬けが弛んだ舌をシャキリとさせる。もはや桃源郷である。

中華晩酌の場合、ビールはお腹いっぱいになるため、最初の一杯に留めておく。絶品中華最強の朋友は、紹興酒である。ボトルごと燗したものを‘聖杯’に注ぎ、飲み干す。私は、紹興酒に粗目砂糖は入れない。甘味が少ない方が、油を多く使う中華料理にはビシっとしまる。

「西神戸牡丹園」は、私が物心付いた時からの大ファンである。ただし、めったに訪れることはできなかった。誕生日や何かのお祝いなど、いわゆる‘ハレの日’限定であった。普段はアテばかり頼むが、このお店では童心に帰り、ガッツリ系をオーダーする。私の見事な注文ぶりに、自分自身で笑みが漏れる。明日世界が滅びるとしたら、私は迷わず「西神戸牡丹園」で、精いっぱい生きてきた喜びと絶品料理を噛みしめるだろう。

U田アーサー王を囲み、紹興酒の入った聖杯を酌み交わしながら、王への忠誠と結束を確認する。円卓中華では、上下貴賎の区別なくベテランも若手も役職も平等と、無礼講を失礼ながらも貫きながら、お会計の時だけダチョウ倶楽部の鉄板芸のごとく「どうぞどうぞ」とアーサー王にお譲りする。やはり、王は別格なのだ。

最高級のエネルギーを補給したアーサー王たちが次にすべきことは、言わずとしれた‘冒険’である。タンク筋を南下し、六間道の虹のアーチも超える。一気に暗く、危険になる。王の四方を警護しながら、さらに下り、とうとう高松線までも越えてしまった。アーサー王というより川口浩状態に陥った一行の前に、ぼんやりと灯りが見えた。安堵するも、罠かもしれない。魔術師マーリンならぬ天津K藤を偵察に起用し、距離を置いて陣を張る。

偵察からOKサインが出た。一同踏み込んだのは、長田区最南端(だそう)の居酒屋「一穂」。この一帯は‘駒ヶ林地区’。大昔、高麗(今の朝鮮半島)の船が来ていたそうで、その高麗を‘こま’と呼んでいたそうだ。昔は沿岸に松林が広がっていたそうで、ゆえに駒ヶ林というのだそうだ。〜そうだ、と伝聞ばかりで恐縮だが、とにかく歴史は古く源平合戦の舞台にもなっている。1000年前から脈々と続く、究極の下町である。

普段は常連さんで賑わうこのお店。見知らぬイチゲンサンがガラガラ戸を開けると、盛り上がりが一瞬にして無音になり、全員の注目を集めてしまう恐怖。とはいえ一瞬のことで、ママさんも愛想よく気遣って下さるし、常連さんも気さくに声を掛けてくれる。今回たまたまガラ隙で、6人そろってカウンターに座ることができた。

ゆで卵を肴に、チューハイを呑む。アーサー王も取り巻きも、気分良く勝利の凱旋歌(カラオケ)を唄っている。一人、また一人と常連さんが来店してきた。常連さんもニコニコと唄に拍手して下さるが、1000年王国で、調子に乗りすぎ空気を読まず、異邦人がカラオケで熱唱するのは、打ち首もののマナー違反だ。混んでくると、さっと席を立って譲るのが粋ってもんである。ところが、居心地の良さもまた事実なのだ。

U田アーサー王は、台座に刺さった大剣のごとく椅子に根が張り、動かない。アーサー王伝説では、この剣を引き抜いたものが、世界を統べることができる。何とも魅力的な伝承である。新長田に置き換えると、U田王を椅子から立たせることができたものが、新長田のまちづくりの中心となる。私を含め、宴たけなわの酔っぱらいたちが、こぞって立たそう(引き抜こう)と試みた。…。U田アーサー王、ぴくりとも動かなかった。

[09.12.06更新]

西神戸 牡丹園

兵庫県神戸市長田区久保町5−1−1−133 アスタくにづか3番館
電話:078−641−0005

居酒屋「一穂」

兵庫県神戸市長田区駒ヶ林町

 

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