WEB限定連載 今夜もまちづくり

第十八夜
海のシルクロード、すべての道は新長田に通ず夜 〜3.哀切篇〜

第十八夜 海のシルクロード、すべての道は新長田に通ず夜 〜3.哀切篇〜
  • 掟一:どんなに満腹かつ酔っぱらっても、1品を食し、1アルコールを摂取すべし
  • 掟二:同じ食物、同じアルコールは2度と注文すべからず
  • 掟三:駅の出口(または改札口)から5分以内にオアシス(お店)を発見すべし
  • 掟四:自動販売機、超大手チェーン、コンビニは利用すべからず
  • 掟五:予算は「‘し’ん‘な’がた」にちなんで1人7,700円以内とすべし(4,700円はご勘弁下さい)
和田岬駅
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店内はすごい活気。お客で大漁といったオモムキだ。ほぼ満席だったが、勝負強く奥の小上がりが1卓だけ空いている。活気に押されて「生!」と叫んだ後は、地味に天ぷらを単品で8ヶ(計910円)を小声で注文。店員さんが天ぷらを注文した後にも関わらず「他にご注文がお決まりになりましたら、お声掛けくださいね!」とおっしゃる。心の中でもうお声をかけることがないことを詫びた。

お通し(ひじき)で激安の生を呑んでいると、熱々大振りの天ぷらが運ばれてきた。一人に一つ出汁がある。恐縮しながら私は大きな穴子を半分、最高値の海老1本、なすを少し味わう。この味、ボリューム、新鮮さは半端ないお値打ち品。座敷に根が生えそうになるが、泣く泣く店外へ。すると、次駅横のヤ●ダ電気がもう見えている。掟とはいえ1分4秒歩いて駅に戻る不条理に、疑問を感じ始めた。

ヴィッセル神戸の本拠地・御崎公園駅に着いたのは20時20分。海岸線で唯一ホームが2つある威容を誇る。冒険当日、本拠地スタジアムでヴィッセルの開幕戦があり、勝利で大いに盛り上がったようだ。しかし地上に出ると、その痕跡がムー大陸のごとく完全に消滅している。ヴィッセルサポーターが騒いでいるかと思いきや、歩いている人間すら見かけない。居酒屋は1軒だけ空いているようだが、少し躊躇する。

御崎公園駅
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もう1軒灯りがともっており、バーかと色めいて突進すると顔ぞりエステだった。ひげでも剃るかと自暴自棄になっていると、三蔵法師が路地を探索し、法力が強いのかオアシスを発見した。「洋食かが山」。本連載初の洋食屋である。店内は本格洋食の雰囲気で、21時閉店だが実に愛想よく入れていただいた。

メニューを観ると、豊富な上に格安。ほとんど1,000円以下である。天ぷらうどんという表記を目にしたとき、酔いすぎて錯覚したと思った。後から聞いたのだが、シェフはどんな料理でもOKという軽快なフットワークを持ち、うどんもご自身で打っているそうだ。

グラスワイン赤(500円)を頼むと、お通しが出てきた。『豚の角煮』である。洋食屋で角煮を味わうとは予想外だが、箸で切れる柔らかさ。脂がしつこくなく、赤ワインがさらりと口中を洗う。

最初に出てきたのは『牛すじオムレツ』(680円)。いわゆる新長田名物‘ぼっかけ’だ。フワフワのトロトロの卵とぼっかけの歯ごたえの対比が絶妙。バターの風味がメルヘンで、口の中で溶ける。『ビーフコロッケ』(800円)は大きなコロッケ2ヶにデミグラスソースがたっぷり。これぞ洋食屋の『クゥロケット!』。巻き舌で叫びそうな味わいである。付け合わせのフレッシュな生野菜が実にさっぱり。

トドメは『ポークカツレツ』。分厚く肉汁滴るカツレツが、鉄板でジュージュー音を立てている。柔らかく、味わい深い。食べ応え抜群。これほど旨みたっぷりのお得な洋食屋カツレツ、中々味わえない。洋食に限らず私が苦手なのは、小賢しく大きな皿に少しだけ盛りつけられているものだ。その点「かが山」はどの料理も皿からはみ出さんばかり。洋食の王道に感激し、赤ワインを思わず3杯呑んでしまった。

後3駅を残しながらも洋食を堪能し、今後の展開に不安を抱きながら38秒歩いて駅に戻る。21時21分に乗車して8駅目の苅藻駅へ。ようやく長田区内に入った。地上に出ると、やはり店がない。ホカ弁ですら閉まっている。マックスバリュ内の飲食店という選択肢が頭の片隅をよぎるが、もっと攻めねばならない。駅すぐの「淡路屋」という何屋か分からぬ店が空いているようだったので、勇気を出して入った。

苅藻駅
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ママが一人で切り盛りし、酔っぱらい気味の常連客がママのサポートを率先してやっているようだ。お客のスエット着用率が100%に近く、イチゲンにはアウェー感満載である。

店内中央のセルフ型食堂のガラスケースが圧倒的な存在感を醸し出す。メニューはうどん・そば・丼が中心。汁モノにはまだ早い。熱燗(270円)を頼み、ケースから漬物(100円〜150円)を4種類(白菜・ナスきゅうり・たくあん・らっきょ)取り出す。熱燗が‘チロリ’という取っ手付き銀容器に入って出てきた。直接加熱することができ、風情抜群である。味の素をたっぷり振った漬物はしみじみとした郷愁がある。きゅうり古漬けのしょっぱさ、すっぱさはご飯がきっと進むだろう。梅干を一度に15個口に入れたような表情を浮かべてしまった。

43秒歩いて戻り、22時05分発に乗って9駅目の駒ヶ林へ。私たちのホームグラウンドである。まさに9合目。山頂まで後一息だ。勇んで地上に出る。これまでの駅に比べると、圧倒的に賑やかな感じだ。しかし、すでにシャッターが閉まっている。立ち飲み系居酒屋が空いているようだったが、もう閉店という。嫌な予感がする。厳しい。空いていないこともないのだが、すでに取材に訪れた店か、掟に背く店(同じ料理と飲み物・予算オーバー・遠距離など)しかない。我がホームで、切なさを噛みしめた。

<次回・第十九夜「天竺篇」(完結)に続く>

[10.03.31更新]

和田岬駅 /  市場食堂駅前 和田岬店

兵庫県神戸市兵庫区和田宮通4-2-3
電話:078-681-0047
お店ホームページ

御崎公園駅 / かが山→4月より「羽柴」になります

兵庫県神戸市兵庫区吉田町2-23-7
電話:078-652-0706

苅藻駅 / 淡路屋

兵庫県神戸市長田区浜添通5丁目2−1
電話:078-652-3129‎

 

 

 

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