WEB限定連載 今夜もまちづくり

第十九夜
海のシルクロード、すべての道は新長田に通ず夜 〜4.天竺篇〜

第十九夜 海のシルクロード、すべての道は新長田に通ず夜 〜4.天竺篇〜
  • 掟一:どんなに満腹かつ酔っぱらっても、1品を食し、1アルコールを摂取すべし
  • 掟二:同じ食物、同じアルコールは2度と注文すべからず
  • 掟三:駅の出口(または改札口)から5分以内にオアシス(お店)を発見すべし
  • 掟四:自動販売機、超大手チェーン、コンビニは利用すべからず
  • 掟五:予算は「‘し’ん‘な’がた」にちなんで1人7,700円以内とすべし(4,700円はご勘弁下さい)
駒ヶ林駅
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歩いた。とにかく歩いた。駅からどんどん遠ざかる。2号線近くまで歩くと、腕塚町4丁目の「ばく」が空いていた。迷わず入った。

22時をとっくに回っているが、元気いっぱい店内を走り回っている小さな子供たちとその若い親という、ある意味新長田らしすぎる光景に覚醒する。鉄板居酒屋なのでオススメ黒板を見て餃子(2人前10ヶ・600円)を頼んだ。オススメだが、マスターが餃子を皮から包み始めたようだ。ハイボール(400円)を呑みながら、隊員たちとこれまでを振り返った。

地下鉄1日乗車券(800円)が大活躍。地下鉄の初乗りが200円なので、この冒険にこれほど力強いパスポートはない。裏面に入出記録が印字されると、なおさら旅の記念になりそうだが今後に期待する。

海岸線全駅に、横山光輝先生の巨大三国志壁画が飾られている。『西遊記』と『三国志』は中国4大奇書(後は『金瓶梅』『紅楼夢』)とされる。運命の導きといえる。最初は各駅で三国志壁画を写真に収めていたが、途中から酔って撮影を忘れてしまう。三蔵法師など、一生懸命記入していたメモを失くす始末だ。

餃子が出てきた。ハネがついており、中国天女のようにセクシーである。肉汁たっぷりで、さすが包みたての焼きたて。前向きな気持ちで店を出た。

2号線を挟み、新長田駅が目の前に見えている。おそらく直線距離で300mもないだろう。しかし、掟に従い直線距離で400m逆行して駒ヶ林駅へ。22時53分に乗車し、ついに、ついに最終10駅目。天竺(新長田駅)にたどり着いた。最後は、汁モノで締めたい。

新長田駅
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天女が舞い、酒池肉林の艶やかさを連想させる天竺。どこまでも明るく賑やかなイメージだ。地上に出て、ネオンの眩しさに目を細めようとすると、細めるどころか真っ暗。某全国チェーンの定食屋と牛丼屋、某世界ナンバーワン外食チェーンのバーガーショップしか空いているように見えない。泣くオトナも黙る日曜深夜の恐ろしさだ。

侘びしくコンビニでカップ麺を啜るしかないのか、と諦めて観念しそうになる私を、雪山で遭難して寝てしまいそうな奴を励ますがごとく叱咤激励する法師、悟空、悟浄。正気を取り戻し、新長田駅の北側へ向かう。区画整理というコンクリートジャングルを彷徨う。路地裏の彼方から、わずかな明かりが漏れている。救助を求めるがごとく手を振らんばかりの勢いで、最後のオアシス、新長田駅出てすぐ(2分程度)の「てんてん」に飛び込んだ。

そろそろ閉めようかのいう雰囲気全開だったが、心を鬼にして、しかも一番手間のかかりそうなテールスープ(2杯・1800円)を注文する。マッコリをボトルで頼み、天竺に辿りついたことを祝福する。言葉にできない。幾多の辛苦を乗り切り、誰も脱落せず、海のシルクロードを走破したのだから。

スープが出来るまで、ママが韓国風いかなごのくぎ煮と自家製キムチをマッコリの肴としてサービス(おそらく)してくれた。感謝しながら冒険を振り返っていると、具だくさんのテールスープが鉄鍋でグツグツ沸騰しながら降臨した。啜る。汁モノ独自の優しさ、旨みが体の隅々まで吸収されていくのが実感できる。体内でオーケストラ演奏が始まった感じだ。脳内で祝福の鐘が鳴り響いている。

店を出ると、24時。16時にスタートし、8時間という長旅だった。一人当たりの経費は、10軒ハシゴしてわずか6,948円(お通し除く)。7,700円という予算内で収まっている。味わった料理の数16(+α)、呑んだアルコール12杯(+α)。アポロ11号の月面着陸に負けるとも劣らない偉業といえよう。

満足感たっぷりに店を出たが、外は真っ暗。果たしてここは本当に天竺なのだろうか。一抹の不安に駆られた。焦燥感が募る。海のシルクロードを完全走破したのだが、実感がつかめない。

天竺?
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沙悟浄は金斗雲に乗って故郷にひと足先に帰って行った。三蔵法師、孫悟空、猪八戒(私)の3人は天竺の痕跡をもとめ、五位池線の北上を続けた。ますます真っ暗になる。西代線も越え、山手幹線近くまで流れ着いた時、背中に電流が流れた。闇夜に「天竺」と書かれた表示がうっすらと見えるではないか!

私の目に、涙が滲んだ。近づくにつれ、涙があふれてきた。ついに、ついに天竺にたどり着いたのだ!光悦の表情を浮かべて、「天竺」と書かれた表示を見る。涙で視界がぼやけている。涙をぬぐい、改めて凝視した。……。残念ながら、そこは「天竺」ではなかった。「‘天竹’工務店」だった。

[10.04.08更新]

駒ヶ林駅 / 鉄板焼き ばく

兵庫県神戸市長田区腕塚町4丁目1

新長田駅 / 居酒屋てんてん

兵庫県神戸市長田区神楽町6-5-10
電話:078-642-1229

天竺? / 天竹工務店

兵庫県神戸市長田区山下町2丁目2番10号
電話:078-631-2888
お店ホームページ

 

 

 

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